それは戦闘中のこと。
いつも通りの連携で、敵を次々と倒していった。
問題なく倒せるはずだったのだ。
しかし足場が悪かったせいか、一人の少女が転んでしまった。
その隙を突いて魔物が爪を振り下ろす―
ガッ
鈍い音がした。が、少女にくるであろう衝撃はこなかった。
恐る恐る目を開けるとそこには、自分をかばい攻撃を受けた青年が、倒れていた。
その後、他の仲間が敵に止めを刺す。
戦闘が終わっても、青年は意識を失ったままだった。
「スタン君の調子、どうだい?」
治療を終え、部屋から出てきたルーティに、ウッドロウは尋ねる。
「たいした怪我じゃなかったわ。ちょっと当たり所が悪くて気を失っただけ。
まあ、そのうち気がつくと思うわ。」
その言葉に一同はほっとする。
「よかった・・・・スタンさん・・・・!」
フィリアが泣きながら安堵する。
彼女が転んだため、スタンが怪我をしたので、一番心配していたのである。
「まあ、体は頑丈だからねえ。心配ないわよ。」
フィリアを励ますように、明るく話す。
「念のため、誰か看病していたほうが良いんじゃないか?」
「僕が看ている。」
マリーの提案に、リオンがすぐに答えた。
「あんたが?珍しいわね・・・。熱でもあるんじゃないの?」
ルーティが不思議そうに、しかし皮肉を込めるのを忘れずに尋ねる。
「何か文句があるか。」
キッと、ルーティを睨む。
「はいはい、無いわよ。んじゃ、何かあったらすぐに言いなさいよ。」
リオンはベットのそばの椅子に腰掛け、スタンが目覚めるのをずっと待っていた。
「・・・・・・」
じっと、顔を凝視する。
いつも明るい光が見える青い瞳も、今は瞼に閉じられ隠れている。
「・・・・・早く起きないか。この馬鹿。」
ポツリと、呟く。
早く、目を覚まして欲しい。
早く、名前を呼んで欲しい。
そんな思いばかりが、胸の中にあった。
「・・・・・ぅん?」
数時間後、ようやく目を覚ました。
「・・・おい、スタン、大丈夫か?」
普段は決して言わない言葉。
本当に大切な人にしか言わない―
「・・・・・?」
瞳は焦点が合っていないのか、どこを見ているのか分からない。
「おい、スタ・・・」
リオンがそう言いかけたのを遮り、
「・・・・君、だれ?」
「・・・・いわゆる、記憶喪失ってやつかい?」
「あたしに聞かないでよ・・・。でも多分、そうなんだと思う。」
あの後、リオンは他の仲間を急いで呼びに行った。
ルーティを中心に色々聞いたところ、スタンは、自分の名前すら分からなくなっていたのだ。
「多分ぶつけた時のショックだと思うんだけど・・・・。
こればっかりは治しようがないわ。」
「精神的なものだからな・・・。」
「ねえマリー、あんた、何か分かんない?」
以前まで記憶喪失だったマリーに意見を求める。
「うーん・・・、やっぱり、何かきっかけがないとな。
日常的なことでも、何か思い出すかもしれない。私も、断片的に思い出したりしていたからな。」
「きっかけ、なぁ・・・。」
一同、考え込む。
「・・・・ええい、ここで考えてても始まらない!とにかく数日は様子をみましょう。
駄目なようなら医者に行くわよ。」
「おお!ルーティが医者に行くって言うなんて!いつも金がかかるから行かないって言うのに。」
「うるさいマリー!とにかくいいわね!」
半場強引な意見だったが、その時のルーティに反発する勇気を持つものはいなかった。
あれから3日。
日常生活をする中で、なんとなく、思い出すことはあるようだが、
本当にちょっとしたことで、記憶が戻るまでには至っていない。
「あれ、リオン。」
街外れに足を運んだら偶然、草むらにねっころがっているスタンを見つけた。
「・・・・・こんなところでなにをしている。」
人通りの少ない場所は何かと危険だ。
そう言っておいたのに案の定、こんなところにいる。
人の話をあまり聞かないところは元々らしい。
「ん〜、・・・・・ここ、風が気持ち良いから、昼寝でもしようかなって。」
いつもと変わらぬ口調。
いつもと変わらぬ行動。
なのに、記憶だけが、無い。
「・・・・・リオン?」
スタンが不思議そうにこちらを見てくる。
おそらくボーっとしていたのが不自然だったのだろう。
「・・・まだ、思い出せないか?」
少し抑制した声で尋ねる。
「・・・うん。なんか、皆が知り合いだっていうのは、なんとなく分かるんだけど・・・。」
瞳を曇らせてそう答える。
「・・・・・・ごめん。」
泣きそうな顔で、リオンを見る。
そんな顔をするな。
そんな顔は見たくない―!
「そんな顔をするな・・・・。」
「だけど・・・・」
「記憶はいずれ戻る。ゆっくりでもいい。だからいつも通り、お前のままでいろ。」
「うん・・・・。」
言い聞かせるように話す。
スタンにも、そして自分自身にも。
はじめは真っ青だった空が、段々赤くなってきた。
どうやら随分時間がたったらしい。
「・・さあ、そろそろ戻るぞ。早くしないと、他の連中がうるさいからな。」
「ああ・・・・。」
すっと立ち上がり、宿屋への道を戻ろうとする。
「・・・・・・ごめん・・・。」
歩き出した瞬間、呟いた言葉は、風に流されて、消えた。
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