対等だと思っていた。
いつも一緒にいて、同じ生活をしていたから。

ちゃんと肩を並べていると。

けれど、どんなことをしても、変えられない『事実』がある。

それが悔しかった。





擦れ違い













今日は久しぶりの休暇。

いつもなら昼まで寝ていたり、イヌヲやジョニー達の所で遊んでいたりしている。

…が、今日は別のことを考えていた。


「………なあ、イージス。」

頑張って早く起きて、朝食を済ませて、部屋にいるイージスの元へと急いだ。

「折り入って頼みがあるんだけどよ・・・。」

「………頼み?」

昨日からずっと考えていたこと。
朝食を食べ終わるギリギリまで迷っていたが、とうとう話すことにした。

「あの、よ。お前、チェスできるよな。」

「チェス?」

本当はイージスにはあまり聞きたくない。
何かと言うと嫌味や皮肉を言ってくるし、見下されている気分になるからだ。

実際今の自分の発言に驚いているようだ。
顔に『まさか…!?』と書いてあるかのようだ。

「無論、出来るが・・・・。」

ホッとする反面、胸に痛みが走る。

やはり貴族は、チェスなどお手の物なのだろう、その事実が悔しかった。

「何故そんなことを聞く?」

聞かれて返答に困る。
必ず質問されるだろうと思い、いくつか理由を考えておいたのだが、いざとなったら全て頭から飛んでしまった。

「い、いや〜、ちょっと、やってみようかな〜、な〜んて………」


歯切れの悪い喋り方になる。
聡い彼は直ぐに見破ってしまうだろう。

「………今日は雨か?」
ムカ

確かに柄にもないことを尋ねているとは思う。
けれど、そんな言い方はないんじゃないか!?

「何だよそれ!失礼な奴!」

つい好戦的な発言をしてしまった。

内心では大慌てだが、一度言った手前撤回も出来ない。

イージスは言い返してくるかと予想していたが、窓の方を見やるだけだ。
が、一人ほくそ笑んでいるのをエルトは見逃さなかった。
まるで自分の行動全てを理解されているかのようで、更に腹がたった。
「もういい!他の奴に聞きにいくよーだ!」


そう言って部屋から出て行こうとする。


「ほう・・・、他に当てはあるのか?」

「そりゃ……「ほう・・・、他に当てはあるのか?」

「そりゃ……!」

言葉が詰まる。

確信犯だ。

他に当てがないのを知っているくせに、こういうことを言う。

意地が悪いと、いつも思う。

「……………」

腹は立つが図星なので何も言い返せない。

ただひたすらイージスを睨みつけることしか出来なかった。


やがて、イージスは小さく溜め息をつき、エルトの方を向いた。

「……分かった、教えてやる。」

意外な返答。

こうなったら意地でもこいつには聞かない、とまで考えていたが、その一言で怒りが収まってしまったようだ。

嬉しいことではあるがその反面、俺って現金だな…等と思い、エルトは心中呆れていた。
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「まずは基本のゲーム内容だ。これ位わかるな?」

「おう!お互いに駒を使って相手のキングを狙うんだろ?」

「随分大雑把だが・・・・、まあ、そんなところだ。なら、次は駒の説明だな。」

二つ折りの盤を開き、中に綺麗に入っていた駒を取り出す。

随分古い型のものだがよく手入れがしてあり、持ち主の几帳面な性格を写し出しているかのようだった。

「これがポーン。駒の中では一番多い。これは一つでは弱いが、いくつかで固まると強くなる。」

「ふんふん。」

「これを上手く使いこなせる様にならなければ、何時までたっても上達はしない。それから・・・・・・・・・・・」



沢山の種類の駒の動きかた。

それを覚えるのは容易ではないと思った。

けれど教えられたことを頭の中で何度も復唱させ、出来る限りを詰め込んでいく。

「・・・・・・・・・・そしてこれがキング。チェスの中では一番大切な駒だ。自分
のキングにチェックをかけられ、しかも逃げたり、防いだりできなければ、チェック
メイトで負けとなる。」

「じゃあこれを守りつつ、相手のキングを取ると・・。」

「他にも色々駒の動きはあるがな、まずはそれだけでやるのがいいだろう。」

盤を完全に開き、駒を白と黒に分ける。

「え、もうやんの?」
予想していなかった提案に少し慌てる。

自分はまだ駒を把握しきれていない。


「聞くだけでは覚えられないだろう。習うより慣れろ、だ。」


そう言われると味も蓋もない…

不安で一杯だったが、とりあえずゲームをしてみることにした。



「……エルト、ルークは斜めには動かん。」

「え、そうだっけ……?」



「おい、そのポーンは今ブロック状態だから動かせないぞ。」

「へ?あ、ホントだ。」



「ああ!クイーン取られた!」

「当たり前だ。これだけ敵に囲まれて取られないわけがないだろう。」












もう何回チェックをかけられただろうか。

正直、全く進歩していない気がする。










「………何度言ったら分かるんだお前は!ナイトはL字型にしか飛ばないんだ!」

「だ、だってよ〜、覚えること多すぎて……」

「……失敗は成功の元と言うが、お前は失敗の連続だな。」

この馬鹿エル、と小さく呟かれるのを、エルトは聞き逃さなかった。


「うう………ι」


それでも、そんなお小言に構っている暇はない。

駒を手に取り、記憶の糸を必死で辿る。


早く。




早く。






焦りが頭を支配する。



「……エルト。」

「んあ?」


集中していたところを急に声をかけられ、思わずおかしな声をあげてしまった。


「何故そこまでしてチェスをしたいんだ?」


ギクリ。


体がこわばるのを感じた。


「いやだから、なんか楽しそうだなーと……」

なんとか誤魔化そうと、必死に理由を探す。

「……一応教えている立場だから、これくらいは聞いてもいいと思うのだがな。」

「ぐっ………」


そうだ。

一応、これでも向こうは『師』のようなものなのだ。

イージスにそんなことを言われて良心がちょっと痛む。

けれど、本当の理由を言ってしまうのは…

暫く心の中で悩み続ける。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・












もーいーや。













「……この前、キャロルの恋人のふりしただろ?」






頭を使うなどという、慣れない行動を起こした反動か、エルトは半場やけになっていた。



「ああ……」


「その時、教養審査だとか言われて色々やらされたんだけどよ、俺何も出来なかったんだよな。」

あの時の事を思い出すと、変な気分になる。
悔しいとか、悲しいとか、負の感情が渦巻いているような。


「人間、そんなんで計れるもんじゃないけどよ、さすがに情けなくてさ……。」



身分とか地位とか、今までは気にしたことなんて無かった。
そんなもの、人についてるオプションみたいなもんだと思っていたから。

けれど、現実はそうもいかなくて。


審査を受けるたびに、自分の出来の悪さを実感して。


すごく歯痒かった。



「だからせめて、少しくらい何か出来なきゃ駄目だって思った。そうじゃなきゃ……」







お前と、肩を並べられないから。








「だから、とりあえず出来ることからと思って……」

「私にチェスを習おうと思った?」

「ああ。お前公爵家だし、教養とか一番身についてそうだもん。」



ホントは他に適任者がいなかったから、ということは胸の奥に秘めておく。



「なるほどな……」


「……なんだよ、可笑しかったら笑えよ。」




自分らしくない。
自分自身でさえそう感じているのだから。

けれど、こんなことでもしていなければ、どんどん不安は募っていく。








置いていかれるのは嫌だ。







一緒に歩いていたい。









「別に可笑しいことではないだろう。それに、遅かれ早かれ教養は身につける必要が
あった。自覚しただけでも大きな進歩だ。」


「イージス………。」



「さあ、続きをやるぞ。あまり時間を置くと、頭からすぐ抜けていくだろうから
な。」











そうだ、悩んでいる暇も、立ち止まっている暇もない。









進むんだ、遅れないように。










胸をはって、こいつの隣に居れるようになるまで。





















end






「対等」でいたいエルト。






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