Uneasy







夜もふけ、明日に備えて寝るべき時刻になりつつある。
が、今日はどうもそうはいかないらしい。


「………………」


今の状況を言い表すならなんだろう。エルトはふとそんなことを考えた。

実際、そんなことを考えている場合ではなかったけれど。


二人一組の部屋には二段ベッドがある。
話し合いの末、上段はイージス、下段はエルトが使用すると決めていた。
何時ものようにベッドに入り、眠ろうとしたのだが、今日に限ってイージスが不可思議な行動を起こした。
簡単に言うと、何故かエルトのベッドへ転がりこんできたのだ。

気を緩めていた自分にも非はあるのだが、いくらなんでも唐突だと思う。
けれどエルトは拒絶するわけでもなく、かといって受け入れるわけでもなくだんまりをきめこみ、イージスの出方を伺っていた。
当のイージスはと言うと、そんなエルトの態度に戸惑っているのか、何のリアクションも起こさない。
こんな状態が、かれこれ10分ほど続いている。


エルトは心中で溜息をついた。

―こいつは一体、なにがしたいのだろう。



エルトとイージスは世間一般で言う『恋人』同士である。
当然、周りには秘密だが(エルト談)。
だからといって何かが変わるわけでもなく、普段通りの生活をしていた。

別にそれが不満というわけではない。
毎日が楽しいし、充実している。
けれど、時々思うのだ。


イージスはただ、自分をからかっているだけなのではないか、と。


彼がそんなことをする性格ではないことは知っている。
それでも、不安は消えずに心の奥に残ってしまう。

正直、イージスは自分のどこを好きになったのかまったく解らない。
自分はどこにでもいるような、ごくごくありふれた一般の人間だ。
特に何かに秀でているわけでもない。
そして何より、『男』なのだ。
対して相手は、悔しいが男から見ても格好良いし、教養もある。
まさに『完璧』な人間だ。
こんな男がいたら、女性は黙っていないだろう。




「好きだ」と言ってくれたのはイージスだけど。
どうしても不安は拭いきれない。

自分は多分、恐らく、イージスが好きなのだと思う。
認めきれないし、理由もわからないけれど。

だからこそ、怖くなる。失うことが。

けれど目の前のこの男は、なにも言わない。
以前の出来事が夢だったのではないかと思うほどに。
今だってそうだ。彼が何をしたいのか、さっぱり解らない。



「・・・・・・・・・エルト!?」

イージスが驚いた声で自分の名を呼ぶ。
それによってエルトの思考は停止した。

イージスを見ると、焦ったような、困惑した表情でこちらを見ているのが解った。

「・・・・・・・・・・・?」

頬を何かがつたう感触がある。
それに触れると指先が濡れた。

「おい、エルト・・・・・・・!」



泣いて、いたのだ。無意識のうちに。



「どうし・・・・・・」
「・・・・・・・・うっさい・・・・・・馬鹿・・・・・・・!」

腹が立った。

それは何も言わないイージスになのか、イージスが何を考えているのか解らない自分になのかは謎だったけれど。
とにかく腹が立った。

「おまっ・・・・・何考えてんのか・・・・・・・全然わかんねえっ・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

壊れた蛇口のように、涙がとめどなく溢れてくる。

「何っ・・・か・・・・言えよぉ・・・・・・馬鹿・・・・!」

今まで秘めていたものが、一気に出てきてしまった。
けれど今更、止めることは出来ない。




ぐいっ



「・・・・・・?」

突如、体を引き寄せられた。

「イ・・・・ジス・・?」

そのまま、抱きしめられる。


「・・・・すまなかった・・・・・。」


イージスの腕に力がこもる。
少し苦しかったが、我慢した。





掠れた声。

曇りを見せた瞳。







もしかしたら、イージスも不安だったのかもしれない。

それがどんなことなのかは分からないけれど。





「・・・・・・・ごめん。」



何故だろう。

たった一瞬の出来事なのに、それだけでも自分の中にある黒いモヤを晴らすには十分で。


少なくとも、この男は嘘はついていない。

そう思えるようになって。


エルトはイージスの腕の中、一人安堵した。

















end








めっちゃ大きなとこではツーカー会話が出来るのに、普段出来ないから不安になる、みたいな話を書きたかったんです、よ・・・・・・(汗)
激しくラストが微妙。