永遠を、信じていた。
ずっと、ずっと一緒に、あのフィールドで球を追いかけていられると思っていたのに
今、目の前に広がっているのは―
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3.
「あの・・・・、ご用件は、なんですか?」
少し怯えたような様子で、それでもしっかりと、話しかけてきた。
それほど自分の形相は酷かったのか、等と思ったが、そんなことを気にしている暇はない。
「直子ちゃん、日向さん・・・君のお兄さんは、今いるかい?」
「・・・・・・・いません。」
「・・・本当かい?」
「・・・・本当です。兄に、どういったご用件ですか?」
直子が敬語を使い、まるで目上の、大人を相手にするかのようだったので、健は少なからず驚いた。
確かに健は直子とは赤の他人だが、子供のころから日向家に立ち入っているし、小次郎が仕事をして家を留守にしている間、お守りを頼まれることもあったの
だ。
弟や妹の兄弟がいない健にとっては、尊や直子や勝達が、自分の弟分になっていた。
直子たちも健を、ずっと兄のように慕っていたのだから。
なので、直子の言動に違和感を感じた。同時に、日向家が今、通常の状態ではないと予想した。
「・・・じゃあ直子ちゃん、一つ聞いていいかい?」
「・・・・なんでしょう。」
「日向さんが・・・、あの人が、ワールドユース代表を辞退したわけ・・・知っていたら教えてくれないか?」
直子の顔が強張った。
明らかに焦っているのが見て取れる。
同じく緊迫していた健にとっては、その態度だけでも十分で。
「何か知ってるんだね、直子ちゃん!」
直子の肩を掴み、乱暴に揺する。
掴んだ手の力が強かったのか、僅かに顔をしかめる。
「あ、ご、ごめん。痛かった?」
それに気づき、慌てて両手を離す。
「ごめんね、でも・・・本当に、俺は知りたいんだ。何であの人は、出場辞退したのか・・・・。」
その言葉にピクリと反応した。
その様子を見て、何かを教えてくれるに違いないと思った。
が、次に来た言葉は予想に反するもので。
「・・・・帰ってください・・・・・。」
「え?」
「帰ってください!二度と・・・二度とお兄ちゃんの所に来ないで!」
「なっ・・・・・・!」
直子はそう言うと、健を玄関先から追い出し、ピシャリと戸を閉めてしまった。
訳が分からない健は、玄関前で呆然と立ち尽くす。
ハッと我に返って、戸を叩いて直子に話しかける。
「直子ちゃん!どういうことだい!?訳を説明して・・・!!」
「お兄ちゃんが!」
健の言葉は途中で遮られる。
「お兄ちゃんがあなたに言ってないなら・・・・私に言うことはできない。ましてや、若島津さんには・・・・・。」
「それは、どういう・・・・!」
「帰ってください!お兄ちゃんはいません!でないと、人を呼びます!」
ここまで言われては、これ以上追求できない。
どんなことがあっても直子は話してくれないだろうし、人を呼ばれては厄介だ。
仕方なく、その場は引き下がることにした。
「・・・分かった。もう帰るよ。ごめんね?でも、もし・・・・。」
とにかく直子を落ち着かせようと、ゆっくりと話しかける。
「もし、話してくれる気になったりしたら、いつでも連絡してほしい。」
答えは、返ってこない。
「・・・・・よろしく、それじゃぁ。」
最後に挨拶をして、健は日向家を後にした。
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辺りはもう薄暗い。
日は沈みかけ、川はオレンジ色に染まっている。
(どうしたもんかな・・・・・・。)
健は故郷の、懐かしい河川敷に座っていた。
日向のユース出場辞退の理由が分かるわけでもなく、直子を説得する妙案が思いつくわけでもなく、沈んでいく夕日を見ながら、ひたすらボーっとしていた。
ここにいると、色々な事が思い出される。
―初めてあの人に会ったこと、初めてサッカーというものに出会ったこと
毎日毎日、暇さえあればボールを追っていたこと・・・・・・。
珍しく干渉に浸っている。
久しぶりに来たせいだろうか。
結局小次郎を見つけることは出来なかったし、理由を知ることも出来なかった。
何故、如何して、何で
そんな疑問符ばかり浮かんでくる。
いままでずっと、同じ時間を共有してきて、あの人のことを理解しているつもりだった。
他の、誰よりも。
普段人に弱みを見せないあの人も俺を頼ってくれて、それが信頼されているからだと思うと嬉しかった。
なのに。
あの人は、俺たちの元から去っていった。
誰にも、一切の理由を言わず。
結局あの人は、誰も頼っていなかったのだ。
それが悔しくて、辛くて、悲しくて。
俺自身も、あの人のことを何も分かってなかったのかもしれない、などと思い。
(いかんな・・・・・・。)
考えれば考えるほど、泥沼に浸かっていく感じだ。
このままでは駄目だと思い、ひとまずここから離れようと思った。
それに、もうすぐユースの代表合宿も始まる。
急いで戻らなければならない。
名残惜しいが、河川敷に別れを告げ、駅へと向かった。
日はもうすでに落ち、一番星が川に映っていた。
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