大きな、大きな戦いが終った。

心という不確かなものを信じ、多くの不安や絶望を振り払って、仲間とともに、この世界を守った。

全てがハッピーエンドではなかったけれど

ようやく戻ってきた日常。







…だけど。


『終わり』が来る以前に、心の中には何かが芽生えた。

考えても分からないこの気持ちに最初は戸惑ったけど

全部終わってやっと、受けとめられた。











終わりの始まり












「はぁ…」


暗い。
自分には有り得ないくらい暗い。



ユリスを倒し、ガジュマとヒューマがようやく協力しあって生活するようになった。
街もいつも通りの状態になり、喜ばしいことなのだが…


「はぁ…」


苦しい。
悲しい。
辛い。



皆と別れてから、寂しいと思ったことはあった。
けれどそれ以上に大きい割合を占めているこの気持ち。





―あいつ、今何してんのかなぁ。


あいつ。
ついこの間まで、一緒に旅をしていた仲間の一人、ウ゛ェイグ・リュングベル。
俺にとってアイツは仲間であり、親友である―はずだった。



なのに
なのに



旅をしてきて、アイツと笑ったり、泣いたり、喧嘩してきたりした。
そんな時を過ごす内に、まったく別の感情が芽生えたのだ。


「おかしいってのはわかってるけどよ…」


同性を好きになる、というのが普通ではないことぐらい知っている。
だから初めは戸惑った。
けれど、旅が終わって別れて、ようやくこの気持ち素直になれたのだ。


「はあ…」


もう少し、せめて決戦前に、気持ちの整理が出来ていたら、ここまで苦しむことはなかったのだが。


「今更、どうしようもないのにな…」


余程のことがない限り、滅多に会うことはないだろう相手を思うと、また溜め息が溢れる。


「…はぁ。らしくねーよな…」




「本当にな。」



「!?」


聞き覚えのある声。
けれど、本来なら聞こえるはずのない声。



「なっ…!?」


「…なんだ、その顔は…」


玄関にいたのは間違いなく、ウ゛ェイグだった。


「なっ…な、な、何でここに!?」


「あぁ…買い出しで少し遠出をな…そのついでに寄ったんだ。それより一体なんなんだ、そんなに驚いて。」


「急に来たら誰だって驚くだろ!」


本気で驚いた。まさか、ついさっきまで思い出していた人物が目の前に現れるとは、夢にも思っていなかったからだ。


(お、落ち着け自分…ι)


心臓が高鳴る。
多分、顔は真っ赤だろう。


「ティトレイ。」


「はいぃ!?」


いきなり呼び掛けられて、おかしな声を出してしまった。


「お前、何時もと様子が違うぞ…どうかしたのか?」


「べ、別に何でも無いぜぇ〜?」


声が裏返ってる辺り、焦りが出てしまっている。


「…………………」


……どうやらウ゛ェイグも気付いているようだ。


「ティトレイ、本当に…」


そう言いながらティトレイの肩に手を置いてきた。


「…っ!」


突然のことに驚き、ついウ゛ェイグの手を払ってしまう。


「あ…」


十分拒絶の意味に取れるその行動に、ウ゛ェイグも、そしてティトレイ自身も動揺した。


「ウ゛ェ、ウ゛ェイグ、わる…」

「ティトレイ。」


謝罪の言葉は遮られる。


「急に訪ねて悪かった。…そろそろ帰る。」

「え…ちょ…!」


そう言い残し、玄関のドアを閉め、去ってしまった。



「………………」



動けない。
思考も上手く働かない。



嫌われてしまった…?
そりゃそうだ。ウ゛ェイグは俺を心配してくれたのに、俺はそれを振り払ったのだから。
…これで、よかったのかもしれない。

どうせ自分の想いを告げても、嫌悪されるのは目に見えて分かっている。
それならいっそ、ここで別れて、自分の気持ちを殺すべきだ。



「…そうだよ、そのほうが…」



声に出すと同時に、ポタポタと、涙が頬をつたう。


「………………!」


悲しくなんかない。
頭で何度も反駁するのに、涙は止まらない。



「…なっ…で…だよ…」





嫌だ
嫌だ
嫌だ!


心の中で、頭とは正反対の想いが浮かび上がった。



このままさよならは、嫌だ!



そう思い立つや否や、家を飛び出した。








****************







「…っウ゛ェイグ!」

「!?」


ウ゛ェイグを見つけたのは、ペトナジャンカを出てすぐの森だった。


「ティトレイ、何でここに…」

「…さ、さっきは悪かった。」


兎に角、先程の行動は自分に非がある。


「…いや、俺も悪かったんだ。突然訪ねたりして…」

「違う!!」

「…?」

「そりゃ、いきなりで驚いたけど…嫌だったとか、そういうんじゃないんだ!むしろ、嬉しかった…でも」


目をウ゛ェイグから決して離さない。


「お前が来る直前からお前のこと考えてたから、俺は頭ん中ごちゃごちゃになって…そんで、あんなことしちまって…」


けれど、声は段々弱くなっていく。


「そ、それで、えっと…」


思考回路がおかしくなってくる。
自分でも何が言っているのか分からなくなってきた。


「さっきお前が帰っちゃって、あぁ、俺嫌われたなって思って、でもそんなの嫌で…」


口は止まらず、喋り続ける。


「お前に前からずっと…ずっと好きだって言いたかったの、諦めようと思ったけど、出来なくて、だから…!?」





………………………




今、自分は何と言ったのか。




「あ…?」




今、今、俺言った?
言っちゃった?




「……………!」


あまりの恥ずかしさに、その場から逃げ出そうとする。


…が


「…どこへ行く。」


ガッチリと腕を、ウ゛ェイグに掴まれた。


「…っ離せ!」
「離さない。」
「離せ!」
「嫌だ。」
「離せ!」
「…さっき言ったことは、本当か…?」
「………!」


やっぱり聞かれていた。

「…あーもーそうだよ!俺はお前が好きなんだよ!バカヤロー!」


もうこうなったら仕方ないと、半場やけになって話す。
ロマンチックの欠片もない告白。(男同士の時点でロマンも何もないかもしれないが)

次に返ってくるのは嫌悪か、それとも嘲りか。
それが怖くて、ウ゛ェイグの顔を見ることが出来なかった。

けれど、返ってきた反応は予期せぬもので。


「…!?」

突然、ウ゛ェイグの元へ引き寄せられた。
そのまま抱き締められる。

「ちょ…ウ゛ェイ…!?」

「…ついでに寄ったと言うのは嘘だ。」

「へ…?」

「旅が終わってお前と別れたが…お前のことが、ずっと忘れられなかった。だから今日会って、その事を話そうと思ったんだ。」

予想外の言葉に、声も出ない。

「けど、お前に会ったら…お前の態度がおかしかったから、もしかして俺の気持ちを知ってて、俺のことを避けてるのかもしれない、と思ったんだ。」

同じだった?
ウ゛ェイグも、俺と同じ気持ちだった?


………つまり


「俺…諦めなくて、良いのか…?」

「…そうだ。」

先程よりも強く、自分を抱き締めてきた。

「…あの戦いが終ってから、決心がついたんだ。」
「…俺も。」


どうしよう。
とてつもなく嬉しい。

「ウ゛ェイグ…」
「何だ?」

「……大好き」




















大きな戦いが終わった。

辛くて苦しい旅が。


…けど、そこからまた、始まる。

新しく、きっと、終りのない道のりが。

終りの後には、必ず、始まりが―








end.




・・・・・うん、ティトレイ乙女・・・・・。