「全く・・・馬鹿は風邪を引かないと言うのだがな・・・。」
「う・・・うるせー・・・・・・。」
―良薬ハ口ニ甘シ・・・・・?
「38.5℃・・・・」
事の発端は今朝。
いつも通り起床し、着替え、未だ夢の世界に浸っているエルトを起こそうとしたことから始まった。
その時既に違和感を感じていたのだが、本人が平気と言い張るのであまり気には止めなかった。
・・・・その時点でしっかり見ておけば良かったのだが・・・。
あろうことにかこの大馬鹿は、訓練途中にぶっ倒れたのだ。
急いで医療室に運んだら、案の定高熱を出していた。
薬を飲み安静にしていれば大丈夫と言う事で一安心していたのだが、その安心もすぐに頭痛に切り替わった。
「そんな体調で動き回ろうとするからだ、馬鹿が。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
そもそもエルトを一人自室に残したのが間違いだった。
こいつがおとなしく寝ているわけがない。
各自訓練に戻った直後、ふらふらの状態で再び外に出てきたのだから。
このまま放っておいたら素振りでもやり始めかねんと判断した全員が、
同室の私にこいつのお目付け役を命じた(というか押し付けた)。
「・・・私はお前の保護者ではないのだがな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
よほど苦しいのか、皮肉にも答えない。
「大体、この体調で何故訓練を受けようとしたんだ。」
「・・・・・・・風邪なんかで、訓練休むわけにはいかねぇじゃんか。」
「風邪を甘く見るな。こじらせたり、悪化させると命の危険にだってなる。」
「だけど・・・・・・・。」
「・・・・お前の気持ちも分かる。早く強くなりたいのだろう?」
なおも弁明を続けようとするエルトの言葉を遮る。
「ならばなおさら、自分の体調には気をつけるべきだ。具合が悪いときに訓練をしても無駄だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「お前が今すべきことは、一日も早く風邪を治すことだろう?」
「・・・・・・・・分かったよ。」
渋々ではあるが、納得したらしい。
「分かったなら良い。・・・・さて、お前はもう少し寝たほうが良いな。」
具合が悪いときは寝るのに限る。
「・・・と、その前に・・・。」
椅子から腰を浮かし、テーブルの上にあるものを手に取る。
「エルト、寝る前に薬を飲め。効果は良いらしいぞ。」
聞いた話によると、王国御用達の薬らしい。
あのザキヤが認めたものだ。間違いはないだろう。
「おいエルト、聞いているのか?」
「・・・・・い。」
「は?」
「飲まない。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
この、大馬鹿は・・・・・。
「貴様さっさと風邪を治したいのだろう!?」
「治したいけど薬は別だ!あんな苦いもん二度と飲むか!」
こいつは・・・・・。
どれだけ人に迷惑をかければ気が済むのだ。
「馬鹿者!『良薬は口に苦し』という言葉を知らんのか!」
「知ってる知ってる!知ってます!だけど嫌なもんは嫌なんだよ!」
そう言ってすぐ、こいつは黙りこくった。
薬の拒絶もあるのだろうが、あんなに大声で言い合いをしたのだ、具合も悪くなったのだと思う。
それでも私の手の内にあるものを睨んだままである。
どんなに言い聞かせても、恐らく聞くことはないだろう。
「まったく・・・・・・・。」
仕方がない。
そう思い、薬を自分の口に含んだ。
もちろん、水も一緒に。
「・・・・・?おい、イージ・・・・・!?」
エルトが驚き顔を上げた隙を見計らい、素早く口付けた。
「・・・・・・・・・・・!!!?」
口の中に含んだものを一気に流し込む。
俗に言う、口移しというやつだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぷはっ!」
全て飲みこんだのを確認した後、唇を離す。
「て・・・・手前、何しやがる・・・・!」
「こうでもしなければ、貴様は絶対薬を飲まないだろう。」
「こ・・・・このやろ・・・・!」
肩で息をしながら、途切れ途切れに話す。
顔が赤いのは、熱のせいなのか先の行いのせいなのかは分からない。
「苦くなかっただろう?」
「・・・・・は?」
「薬、苦くなかっただろう?」
「・・・・・・・・・・・・馬鹿。」
それは、甘美なもの。
甘い甘い、口付け。
「・・・さあ、さっさと寝るんだな。」
「・・・・・言われなくても分かってらぁ。」
そう言って、瞳を閉じて眠りにつく。
よほど疲弊していたのか、数分もしないうちに静かな寝息が聞こえてきた。
「・・・・・・まったく、私もおかしくなったものだ。」
あんな行動にでた自分に、少なからず驚いている。
いや、こいつにこんな気持ちを抱いている時点で分かっていたのかもしれない。
躊躇いも、戸惑いも、今となっては微塵もない。
「・・・・さてと。」
そろそろ皆のところに戻っても平気だろう。
きっとしばらくは目が覚めないだろうから。
あいつらに文句を言ってやる
そう意気込んで踵を返そうとした。
・・・・・・が、何かに引っ張られ、体制を崩してしまった。
何事かと後ろを振り向いてみたら、自分の服がぎゅっと掴まれていることに気付く。
エルトの手だ。
寝ているところからして、無意識の行動なのだろう。
まるで、目が覚めるまで此処にいろと主張しているかのようだ。
「・・・・・・・・仕方がないか。」
こいつが手を離すことはないだろう。
振り払おうにも、払えない。
たまには、甘やかすのも悪くはないだろう。
そう思い、椅子に腰掛け、再び、唇を合わせるだけのキスをした。
ちなみに後日、見事に風邪をうつされたイージスがいたとかいなかったとか・・・・。
END.
甘め。書いてて恥ずかしくなった。
エルトに対して余裕なイージスが良い。